セミと素麺とスイカと二人



ミンミンミンとセミが鳴く。
一匹だけならまだしも、何匹もがバラバラに鳴くともううるさくてたまらない。
家の中で静かに過ごしたいんだ邪魔しないでくれセミ、などと言いながら虫取り網を取り出すわけにもいかない。

おとなしくセミのリサイタルを聞きながら、ずるずると昼飯の素麺(親がいないから自分で作った、あちぃ)を食べる。



「・・・氷入れてんのにそんなに冷えてないなぁ・・・」



素麺を一人空しくずるずるすする、日曜の昼。
午後からは部屋でクーラー効かせて勉強でもするか、そう思いながら冷蔵庫へ麦茶を取りに行こうと立ち上がった瞬間。

ぴんぽーん。

インターホンが鳴り響いた。



「誰だよこの暑いときに・・・。新聞勧誘だったらすぐドア閉めるか」



そのまま玄関へ直行する、ドアを開けるまえにもう一度「ピンポーン」と鳴った。



「何度も鳴らさなくてもいいって・・・はーい」



ガチャリとドアを開けた瞬間に目の前に映ったもの。
それは、緑色に黒の線が入った丸いもの。
スイカだった。



「じゃーん。南、遊びに来」

バタン、ガチッ

「?!鍵閉めた?!」
「今日お前が遊びに来る予定はないぞ!」
「予定なくてもいいじゃんかよー!俺すっごい暇なんだって!今日誰も女の子捕まんなくてさー!」
「捕まらないんだったら一人で街でも歩いてろ!」
「こんな暑い中一人で歩いたら死ぬって!!ほら土産にスイカまで持ってきたから!!」
「どうせそのスイカ俺が切るんだろ?!」
「俺に切らせるつもり?!お客だよ俺?!」



ドア一枚隔てての攻防。



「そういう態度を続けるなら家には一歩も入れないからな!!俺は今から宿題片付けんだから帰れ帰れ!」
「・・・そこまで抵抗するなら俺にも考えがある!」



千石の足音が、ドアから少し遠ざかる。



「・・・な、何する気だ、千石」
「このスイカをそのドアに特攻させ」



ガチャリ。
俺はあっさりと降参した。こいつなら本気でやりかねない。
千石はスイカを頭のうえまで持ち上げていたが、俺が出てきたのを見てスイカを下ろした。



「最初からそうしてれば、俺だってこんなことしようとしないのに」
「電話の一本もよこさないで来るお前もお前だっ」



靴を脱いでずかずかと千石はうちにあがった。



「俺まだ昼飯途中だから、食い終わるまで待」
「じゃあ俺もなんか食べるよ、おにぎりとか買っといてよかったよかった」



スイカとコンビニ袋を持って、俺より先に居間に向かう。
・・・勝手知ったる人の家・・・。



「あ、南素麺食ってたんだ」
「インスタントラーメンとか、この暑いときに食いたくなかったから」
「俺も素麺ほしい!ウメ一個でどう」
「俺はシャケのが好きだな」
「・・・じゃあ、世界にたった一つだけの俺のシャケあげるよ・・・」
「なんだよその表現」
「いや大げさに言ったら遠慮してくれるかなと思って」
「世界に一つだけ、は大げさに言いすぎだろ」



食べかけの素麺と、つゆの入った器をそのまま千石のほうへ渡す。
千石はシャケおにぎりを俺のほうへ向かって投げる。



「そんじゃ、素麺ありがたくいただきまーす」
「シャケにぎり、いただきます」
「あ、南、わさびわさび」
「もう入ってるだろ、まだ足すのか」
「俺もうちょっと量が多いほうが好きだから」



「ついでに、スイカ冷やしといてー」と渡されたスイカも持って冷蔵庫へ。
冷蔵庫からわさびを取り出して、「ほら」と千石のほうへ放り投げる。
野菜室の隙間にスイカを詰め込んで、テーブルに戻る。



「そんじゃ、改めていただきまーす」



食べかけの素麺をズルズルと千石がすする。
俺はシャケにぎりをうまく取り出して、一口かじりつく。
美味いけど、夏の昼に食うもんじゃないな・・・と少し後悔した。



「いやー夏はやっぱ、冷えた素麺だよなぁ!うんうん」
「少なくともシャケのおにぎりは昼間から食うもんじゃなかった」
「いいじゃん、南好きっしょ?シャケ」
「そりゃ好きだけどさ」



「じゃ、いいじゃん」と言ってまたズルズルと素麺をすする。
黙々とおにぎりを食べる男と、嬉しそうな顔で素麺をすする男。
第三者から見たらすごいシュールな光景だろうなぁ。





***





「素麺ごちそうさまでした」
「いいえどういたしまして。俺、これ洗うからちょっと待ってろよ」



食い終わった器を流しへ持っていく。
洗っておかないと、母さんがうるさいんだよな。



「そーいや南さー宿題やったー?」
「まだ全部は終わってないけど、やってることはやってる」
「見」
「見せないぞ」



キュッキュとスポンジでみがいて、水で流して横に置く。
朝、家族が使った皿なんかも洗うのがメンドくさい。



「俺テニスに熱中しすぎて全然手つけてないんだよー頼む!」
「その割にはお前練習サボってたじゃないか!」
「あ、あれはー・・・秘密特訓ってやつだよ!ほら自分用の特別メニューっていうかさ!!」
「秘密特訓ってあっさり俺に言うあたりアヤシイって」
「だーーー頼むから!お願いですから!南様!!せめて3つ!3つ写させて!!」



「今日そのためにちゃんと宿題持ってきてあるから!」と鞄の中身をがさがさとあさる音がする。
ていうか写すために来たのか。
洗い物をする手を止めて、千石のほうを振り返る。



「3つな?3つだけでいいんだな?」
「見せてくれんの?!」
「いや、見せない」
「?!見せてくれんじゃないの?!」
「教えてやるよ、わかんないところがあったら。それでいいだろ」
「んげっ、そう来るか・・・!」



洗い終わった食器を全部乾燥機に、入れて。
手を拭いて、テーブルに座る。



「ほら、宿題ここに出す」
「ぅげー。写すだけのが楽なのにー」
「楽して生きてけるほど、世間は甘くないってことだ」
「・・・わかったよ南先生ー」
「ふざけるなっての」
「あてっ」





***





「千石」
「・・・」
「お前本っ当に学校の授業受けてるか・・・?」
「と、時々寝たりしてるぐらいで、いたってマジメな」
「嘘つけ!記号問題ぐらいしか解けてないじゃないか!」
「ラッキー♪」
「ラッキー♪じゃあないだろ!!」
「あいって!!」



昼飯食って3時間、予定なら一つ1時間半で終わるはずだったのに。
思わず俺は頭を抱えた。



「こんだけやってまだ一つも終わってないってのがおかしい・・・」
「いやぁ手間かける生徒でごめーん」
「本気で謝るつもりないだろお前!!」
「いやマジで悪いって思ってるって!本当に!マジで!!」
「・・・はぁ、疲れた。ちょっと休憩入れよう」
「じゃあスイカ食べよう!俺が持ってきたやつ!」



千石が立ち上がって、冷蔵庫からスイカを取り出す。
まな板と包丁を取り出して(勝手知ったる・・・)、真ん中から半分に切った。
そして、真っ二つになったスイカをそのまま持ってきた。



「よし、食おう食おう!」
「・・・ってこれそのまま食うのか?!」
「え、だって一個一個切るのメンドウじゃん」
「いやだからって、半分そのまま食うのは」
「どうせ俺と南なら半分食べ切れるっしょ。ほら変なこだわり捨てて、食べる食べる」



千石は半分になったスイカをそのままスプーンですくって食べる。
抵抗はあったが、一個一個切るような気力はなかったので、俺もスプーンですくって食べた。
・・・こんな食い方したの初めてだよ・・・。



「・・・お前ってなんでも楽する方に頭が働くんだな・・・」
「要領がいいの、俺は」
「本当に要領がいいやつは、宿題ため込まないぞ」
「・・・それは、それ、これはこれ」
「なんだそれ」



話ながら、お互いにどんどんスイカを掘っていく。
なんか、スイカを食べてるって感じがしないな。



「今からこんな状態でどうするんだ、今年俺達受験生なんだぞ」
「んーでもどうせ俺達エスカレータ式じゃん」
「そうだけど、成績悪かったら上がらせてもらえねぇかもしれないじゃないか」
「なんとかするよ、そのときは」
「・・・はぁ、お前が思ってるほど世間は甘くないからな」
「んーでも、南が思ってるほど世間は厳しくもないと思うなー」
「なんだよ、それ」
「南は心配性だからねぇ」



ザクザクとスイカを掘る。気付けばもう半分くらい食べていた。



「・・・さて、そろそろ休憩終わり」
「え?!俺まだ半分ぐらいしか食べてないのに!!」
「残りは、終わってからだ。終わったあとのごほうびみたいなのがないと、早く進みそうにないしな」
「・・・そういうとこが心配性なんだって・・・」
「保険は必要だろ」



文句を言う千石を無視して、また机に宿題を広げて講義開始。
結局、終わったのは2時間後。
たった一つ終わらせた後なのに、俺達はかなり疲れてテーブルに突っ伏していた。



「なんでお前は理解できないんだよ・・・」
「南の説明がわかりにくいんだって・・・」



ごほうびのスイカを、食べる気力もなかった。


***あとがき***
前日記で書いたもの。リクエストによりアップ、使いまわしとかじゃないよ!(笑


書いた日:2004/6/25 柊華音